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PROJECT STORY | ニチレイバイオサイエンス

「ヒストファイン™」
開発プロジェクト

ニチレイバイオサイエンスの主力商品である、免疫組織化学染色製品・ヒストファイン。
思わぬ形で研究開発の必要が生まれたこの製品に取り組んだのは、現在、グローバルイノベーションセンターの所長をつとめる大林である。
未知の分野に果敢に挑む大林の姿から、ニチレイバイオサイエンスの挑戦の歴史を感じて欲しい。

MEMBERこのプロジェクトに登場する社員

  • 大林 弘一

    大林 弘一

    1985年入社

    取締役執行役員グローバルイノベーションセンター所長兼研究開発部長

掲載の仕事内容、所属は取材当時のものです。

01 専門外の分野の製品開発に、白羽の矢が立つ。

プロジェクトの様子

「免疫組織化学染色製品」とは免疫反応を可視化するための製品であり、病理組織を用いて診断するためには欠かせないものである。1982年にニチレイがバイオ分野に本格参入を果たした当時から続く、重要な製品群だ。1991年には、米国の企業からOEMによって原料を輸入して日本で性能を確認して、自社ブランド『ヒストファイン』としてリリース。後発ながら、業界内でのポジションを着実に確立していった。
そんな中、予期せぬ事態が起こる。米国の供給元が、新規に開発する製品を他社に提供しないことが決定したのだ。それに追い打ちをかけるように、ニチレイの競合であるA社が、ポリマーを使った新たな試薬の開発に成功したというニュースも飛び込んできた。このポリマー試薬は、従来の製品より簡便かつ高感度の検出を実現。その圧倒的な機能性の高さに、多くのユーザーが熱い視線を注ぐようになった。
危機感を感じたニチレイは、『ヒストファイン』の自社開発を決断。そこに白羽の矢が立ったのが、診断薬の研究開発に従事している大林弘一だった。大林に与えられた研究課題は、A社の製品をしのぐ“簡便”“高感度”の製品を開発すること。これまで試薬の開発に従事はしていたが、大林にとって免疫組織化学染色は専門外の分野。大きな期待と重圧を背負い、大林の研究はスタートした。

02 ターニングポイントは「発想の転換」

プロジェクトの様子

ポリマーという発想は、大林にとって特別なものではなかった。しかし、実際に製品化するとなると別の話だ。免疫組織染色の分野でポリマー合成を行うにはきわめて高度な技術が必要で、その難易度の高さからどの企業も製品化が実現できずにいた。A社はその壁を打ち破り、ポリマー試薬を完成させたのだ。
製品パンフレットや特許情報などから、A社製品のポリマーの骨格には特許物質が使われていることが判明した。「たいした技術だ」大林の正直な感想だった。大林はヒントを得たが、特許を侵害することは許されない。特許物質を使っても特許に抵触しない方法を模索し、特許物質以外の成分も試した。また、根本的に骨格を必要としない構造にもトライした。開発に充てられていた期間は2年。しかし、着手してから1年が経過しても、糸口さえ見出せない状況が続いていた。「一体どうすればいいんだ…」大林は頭を抱えていた。この状況を打開するため、大林はこれまでとは全く違う発想に挑戦する。骨格に特許物質ではなく『アミノ酸ポリマー』を用いたのだ。当時、アミノ酸ポリマーを使うことは病理学の分野で考えられないことだった。

03 製品化を見据え、プロジェクトは加速する

プロジェクトの様子

大林自身、半信半疑で使ったアミノ酸ポリマー。それが、思いもよらぬ効果を見せた。「大林さん、もしかしたら使えるかもしれません!」試作品の評価を依頼していた担当者から、アミノ酸ポリマーが効果を発揮したとの報告があったのだ。闇の中にわずかな光を見出した大林は、調整過程の条件など複数な要素を改めて検討。試作と微調整を繰り返し、最適な状態のプロトコルを構築した。ついに、製品化へのはっきりとした道筋が見え始めた。
製品化の目途が立ったことで全社からメンバーが招集され、製品化プロジェクトが立ち上がった。生産や営業、学術などの各部署の精鋭たちによって、発売日や価格、容量、パッケージデザインなどが話し合われる。
大林は生産部門と連携し、研究段階から実際の製造に移管するスケジュールを綿密に詰めていく。また、営業に対しては、新製品の機能や他社製品に対する優位性などをレクチャー。さらに、その合間を縫って特許の出願を行った。アミノ酸ポリマーという発見で壁を超えてからと言うもの、開発のスピードは加速。結果的に、目標よりも1ヶ月ほど早く完成にこぎつけた。
「やりましたね!」「おう、やったな!」大林たちプロジェクトメンバーは、歓喜に沸いた。

04 自らの作った主力製品、その上を目指して欲しい

プロジェクトの様子

1998年。ニチレイ初の自社開発による免疫組織化学染色製品が発売された。製品名は『ヒストファイン シンプルステイン』。製品の機能をダイレクトに表現するネーミングだ。ポリマー試薬はまだそれほど認知されていなかったが、高機能製品の登場を大学病院など医療機関は歓迎。『シンプルステイン』を採用する施設は、徐々に増えていった。A社も先駆者のプライドを見せ、短いスパンで従来品をグレードアップさせた製品を投入。
それを受けてニチレイは、2001年に『シンプルステイン』の改良版である『シンプルステイン MAX』をリリースした。
また、1999年からは海外販売がスタート。『ヒストファイン』は、ニチレイのバイオ関連製品では初となる海外進出を果たしたのだ。さらに2005年分社化されて以降は、数多くのシリーズ製品が誕生。こうして『ヒストファイン』シリーズは、ニチレイバイオサイエンスの看板製品へと成長したのだった。その原動力となった大林は、現在、グローバルイノベーションセンター所長兼研究開発部長という重責を担っている。一人の研究者から研究開発全体をマネジメントする立場になり、「自分が生みだした製品を上回るものを開発して欲しい」と若手に期待を寄せる。ただ、世界に通用する技術や製品を開発するという目標は、研究者だった頃と変わることはない。