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第2回 家庭で発生しやすい食中毒菌と殺菌方法

食中毒を防ぐためには、まず「敵」である食中毒菌について知る必要がある。岩手大学名誉教授の品川邦汎氏に、現在日本の家庭で発生しやすい食中毒菌のワースト6を中心に、解説していただいた。

どこにいる?

 カンピロバクターなど上位3つの食中毒菌は動物由来で、鶏などの食鳥や牛などの動物が保有。肉などに汚染し、また糞便から水などに広く汚染している場合がある。
「これらの食中毒菌は鶏や牛に危害を及ぼさないので、健康な状態の家禽や家畜の腸管内に生息しています。生肉には食中毒菌が付着しているという前提で、取り扱いに気をつけてください。市販の国産鶏肉では、カンピロバクターが5~7割程度汚染しているという報告もあります。これは肉が新鮮かどうかには関係ありません」

どれくらいの菌数で発症する?

 食中毒菌を1~2個摂取しただけでは発症しない。発症するにはある程度の菌量が必要であるが、少ない菌量で発症するものと、多くの菌を摂取しないと発症しないものがある。
「体調や抵抗力、大人と子どもの違いなどもありますが、サルモネラ属菌は通常1万~10万個程度の菌量を摂取すると発症します。それに対して、腸管出血性大腸菌O157は100個程度の少ない菌量でも発症します。生肉の汚染菌が包丁やまな板などを介してサラダに付着し、食品中で増殖しなくても、発症する場合があります。また、食中毒患者の便(1g)の中には数百万個以上の菌が存在しており、トイレや洗面所などでの人から人への感染には注意が必要です」
 また、食品中で増殖しないノロウイルス(カキなどの二枚貝に汚染していることが報告)も、非常に少ないウイルス量で発症するので、人から人へ感染するケースが多くみられる。

家庭で気をつけたい食中毒菌ワースト6

どれくらいの速度で増える?

 細菌の多くは10℃以下(冷蔵庫内の温度の目安)で増殖は遅延し、-15℃(家庭の冷凍庫内の温度の目安)以下では停止するが、死滅しているわけではないので、室温に戻すと増殖をはじめる(食中毒菌は35℃くらいが最も増えやすい)。
「増殖速度の速い腸炎ビブリオは、栄養条件がいいと10分に1回分裂して2倍に増えます。1時間で約32倍、3時間経つと約1万倍になっている計算です。サルモネラやウェルシュ菌はそれよりやや遅めですが、高めの室温で2~3時間放置すると増殖して、食中毒を発症する程度の菌数に達します」
 また、ボツリヌス菌やウェルシュ菌などは、酸素のない状態でしか増えない食中毒菌であり、瓶詰めや真空パックなどの食品でも過信しないことが必要だ。前日に調理したカレーやシチュー、すき焼きなどの残りも要注意。加熱によって鍋の中が低酸素状態になり、一晩でウェルシュ菌が増殖して食中毒を発症する例がある。前日の残り物などは冷蔵庫で保存し、必ず再度しっかり加熱してから食べるようにしよう。

どうすれば殺菌できる?

 サルモネラ、病原性大腸菌、カンピロバクターなどの食中毒菌の多くは、75℃以上1分間の加熱でほとんど死滅する(ノロウイルスは85℃以上1分間)。食肉で汚染されやすい部位は、肉の表面。牛肉などのブロックでは、肉の中まで菌が侵入している可能性は少なく、健康な大人なら、表面を十分焼いて食べれば問題ない。ただ、挽肉やハンバーグ、細切れの肉を固めた結着肉、調味液を注入した加工肉などは、中まで菌が侵入している可能性があり、中心部までしっかり火を通す必要がある。
 2011年には、焼肉チェーン店で「牛ユッケ」による腸管出血性大腸菌(O157およびO111)食中毒(患者数181名、死亡者5名)が発生した。この事件をきっかけに、厚生労働省は、罰則規定を伴った「生食用食肉の規格基準」について検討し、新基準を作成した(※)。2011年10月1日から施行された。また消費者庁でも、食肉の生食は食中毒発生リスクも高く、子どもや高齢者などの抵抗力の弱い者は生食を控えることについて、「生食用食肉の表示基準」を定めた。
 また、2012年7月1日からは、牛レバーを生食用として販売・提供することが食品衛生法で禁止された。牛肝臓内部から腸管出血性大腸菌O157、ベロ毒素(VT)遺伝子が検出され、また、糞便性大腸菌も多数認められることが明らかになった。これらの菌が牛肝臓内部から検出されることは、腸管内に生息している菌が総胆管を経由して胆嚢内に侵入・増殖し、肝臓内の毛細胆管に生息していると考えられている。現状では、生レバーを安全に食べる方法がなく、中心部まで十分に加熱殺菌することと規定されている。
 目に見えない食中毒菌やウイルスによる食中毒を、100%防ぐことは難しい。また、むやみに食中毒を怖がったり神経質になりすぎると、食の楽しさやおいしさを失うことになるので注意が必要だ。だが、これらの食中毒菌の特性を知り、ポイントを押さえて対応することで、危険度はかなり下げられる。食中毒予防のために、日ごろの調理や食事などについて、食材から喫食まで危害分析の視点で見直すことも大切だ。

 ※加工基準として牛肉塊表面から1.0cm以上の部分を60℃で2分間加熱処理し、加工調理する場合、衛生的設備を備えた施設で専用の器具などを用いて行うこと、また、保存基準として冷蔵は4℃以下、冷凍は-15℃以下とすることなどを設定。さらに、製品の成分規格として、腸内細菌群(Enterobacteriaceae)が陰性であることと定められており、本基準では腸管出血性大腸菌だけでなくサルモネラ属菌も対象とされている。

割った卵は要注意!

 サルモネラを保菌している鶏の産んだ卵には、卵内にサルモネラが汚染していることがある。しかし新鮮な卵では、その菌数は一般に100個以下と少ない。現在は卵の賞味期限(生で食べられる期限)の表示が義務づけられているので、もしサルモネラの汚染卵だったとしても、その期限内であれば生卵を食べて食中毒になることはほとんどない。ただし、期限内の卵でも、殻を割って、しかも黄身と白身をかき混ぜることにより、菌が増殖しやすい状態になる。卵は、冷蔵庫で保管し、割ったらなるべく早く使うようにすることが重要だ。

Column:「抗菌加工製品」で食中毒は防げるか

 現在、「抗菌加工製品」の市場は年間約一兆円規模、アジアや欧米にも広がりはじめているという。これらの製品と食中毒予防の関係について、抗菌製品技術協議会の専務理事・事務局長の藤本嘉明氏にお話を伺った。

 「『抗菌』という言葉は誤解されやすいのですが、殺菌や除菌などと違って菌を死滅させるという意味ではなく、『製品の表面の細菌の増殖を抑制する』と定義されています」と藤本氏。日常生活の中で使用する抗菌加工製品は、すべての菌を死滅させるほど効果が強いものでは、触れたときに皮膚の常在細菌など有益な菌まで殺してしまい、人にも環境にも逆にリスクが高くなるためだという。
 「あくまで、その製品上で菌が増殖しないようにコントロールする技術。そういう性質のものなので、抗菌加工製品を使ったからといって、それだけで食中毒を防ぐことはできません。また、抗菌効果は製品の表面上に限られます。例えば、抗菌加工のまな板などでも、表面が汚れで覆われていれば、その上についた食中毒菌には効果は及びません」
 つまり抗菌加工製品といっても、無加工の製品と同様に、きちんと洗浄などの手入れをすることは不可欠なのだ。特徴や効果を正しく知って必要に応じて選択し、その良さを生かせる使い方をしたい。

抗菌製品技術協議会(SIAA:Society of Industrial technology for Antimicrobial Articles)適正で安心して使える抗菌加工製品の普及を目的に、1998年6月に発足。自主基準を満たした製品に表示する「SIAAマーク」の運用を行っている。2000年には国家規格として「日本工業企画JIS Z 2801(JIS抗菌規格)を制定、2007年には国際標準化機構(ISO)に国際規格ISO22196として承認された。

監修:品川邦汎(しながわ・くにひろ)
岩手大学名誉教授、盛岡大学客員教授。
大阪府立大学農学部獣医学科卒業。
大阪府立公衆衛生研究所研究員を経て、1980年に岩手大学農学部助教授、
1994年に教授、2009年に名誉教授。
2011年から盛岡大学客員教授。
内閣府食品安全委員会、微生物・ウイルス専門調査会副座長、日本食品衛生学会会長のほか、東北食中毒研究会副会長なども務める。

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