ニチレイから、いま伝えたい食にまつわる
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<第4回> 天然氷と人工氷の販売合戦

機械製氷(人工氷)の技術が発達し、製造する会社が徐々に増えてきた1883年以降、
天然氷と人工氷陣営による、激しい販売合戦が繰り広げられるようになります。
人工氷は当初、「有害品」という悪評が広まり、販売に苦戦しましたが、
東京製氷が宮内省の指定工場となったことなどにより、形成逆転します。
第4回は、人工氷が人々から支持され、天然氷のシェアを抜く過程に迫ります。

天然氷と人工氷の販売合戦


人造氷売出し広告
(早稲田大学図書館所蔵)
1883年、日本人資本による初の機械製氷会社である東京製氷が、東京市京橋区(現・東京都中央区)に設立。翌84年から人工氷の販売を開始しました。
この頃から、天然氷と人工氷陣営による、氷の販売競争が激化。両者は新聞広告やビラを配布するなどして、品質をめぐりネガティブ・キャンペーンを繰り広げました。
人工氷陣営は、「天然氷には目に見えない汚物が混合している」「野蛮なものである」などと痛烈に批判。それに対して天然氷陣営は、「根拠のない話で天然氷の信用を傷つけようとしている」と反論しました。堀を採氷場として利用する際に内務省衛生局の試験を通過しており、さらに警視庁の検査後に販売許可をもらっていることなどを理由に、安全性をアピールしました。
そして、天然氷陣営はお返しとばかりに、「人工氷は薬品を使用している有害品である」と言い広めました。これが致命傷となり、人工氷のイメージは悪化しました。

当初は苦戦した人工氷

汚名返上しようと、人工氷陣営は「天然氷同様、内務省衛生局の試験を通過しており、衛生的である」と主張しましたが、焼け石に水。世間一般の人々が抱いていた、人工氷に対する安全性の疑念を晴らすことはできず、販売に苦戦しました。
そこで、東京製氷は、工場の前に人工氷を積んで、通行する児童に使ってもらうなどして、PRに力を入れました。こうした取り組みの結果、人工氷の品質に対する評価は高まっていきました。さらに、 人工氷の価格は天然氷に比べ、一割近く安かった こともあり、徐々にシェアを増やしていきました。

雌雄を決した「花氷」(はなごおり)

1887年、天然氷と人工氷陣営による激しい販売競争に終止符が打たれるきっかけとなる出来事がありました。
皇太子殿下(後の大正天皇)が東京製氷の築地工場を見学された時のことです。中に花を入れて凍らせた、観賞用の氷である「 花氷 」の製造現場を見学し、興味をもたれた殿下は、明治天皇へのおみやげとして花氷を持ち帰りました。ただでさえ機械製氷が珍しかった時代です。美しさと涼感を兼ね備えた花氷は大変珍重されました。
その後、東京製氷は宮内省に献上する花氷専用の製氷タンクを設置するなどの対応を行い、同省の御用指定工場となりました。そして、「宮中に納入する氷は機械氷に限る」との告示が出ました。このことは、天然氷に大打撃を与えました。
これをきっかけに、東京製氷は大宣伝を行い、人工氷に対して世間一般の人々が抱いていた悪いイメージを払しょくすることに成功。低価格に加えて、品質面でも信頼を集めた人工氷は、1897年には天然氷のシェアを追い抜きました。

天然氷が高くても人気だった理由

1889年の氷の価格(1トン換算)を、種類別、産地別に比較すると、以下のようになります。

種類 産地 価格
天然氷 北海道(五稜郭) 17円82銭
栃木県 15円50銭
神奈川県 14円40銭
人工氷 - 13円33銭

※香取国臣編『中川嘉兵衛伝―その資料と研究―』(関東出版社)をもとに作成

このように、天然氷は人工氷よりも割高だったにも関わらず、支持されていた理由は、堅くてとけにくいことと、人工氷が有害であると信じられていたことなどが挙げられます。ちなみに人工氷は当初、市場などで魚の保存用として使用されることが多かったようです。

ニチレイロジ関西で花氷を製造

ニチレイグループのルーツのひとつである東京製氷が躍進するきっかけとなり、今でも結婚式などのイベントで飾られることが多く、「氷の芸術」とも称される花氷。2012年頃までニチレイ・ロジスティクス関西の「西京物流センター」の製氷室で製造しており、奈良県の氷室神社で毎年5月1日に行われている「献氷祭」(けんぴょうさい)に献氷なども行っていました(現在は停止しています)。

花氷師が、仕上がりをイメージしながら氷中の造花や葉の位置を微調整して、約30時間かけて不純物や空気が入らないように凍らせていきます。その技術は、まさに職人芸といえるものでした。

【参考文献】
天野米作 「日本に於ける製氷の歴史に就て」 『日本冷凍協会誌』2号 日本冷凍協会、1926年
長塩哲郎編述 『京都氷業史』 全国事業新報社、1939年
岡本信男 『水産人物百年史』 水産社、1969年
香取国臣編 『中川嘉兵衛伝―その資料と研究―』 関東出版社、1982年
日本冷凍空調学会日本冷凍史編集委員会編 『日本冷凍史』 日本冷凍空調学会、1998年
『改訂新版 世界大百科事典10巻』 平凡社、2007年
大沢秀人著、横濱元町古今史編さん委員会編 『横濱元町古今史点描』、2008年
紀田順一郎 『横浜開港時代の人々』 神奈川新聞社、2009年
荒川区立荒川ふるさと文化館 『東京‘氷’物語』 荒川区立荒川ふるさと文化館、2013年

氷と暮らしの歴史をたどる

2014.11.11 更新

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