<第1回> 氷の「重さ」を調べよう
氷の実験室
ニチレイのルーツをさかのぼると、明治時代に設立されたふたつの製氷会社にたどりつきます。この二社はその後合併し、全国のたくさんの製氷会社を吸収して段々大きくなっていきました。もともとニチレイは氷屋さんだったということになります。今もグループの中には 株式会社ニチレイアイス という会社があって、大手の製氷メーカーです。
氷が大好きなニチレイはこの「氷の実験室」で、みなさんと一緒に「氷」の秘密をじっと見つめ考えていきたいと思います。雪と氷が大好きなレイちゃんとロジロジくん、氷博士の石井先生と一緒に、氷の不思議に触れてみましょう。
石井寛崇
(いしい・ひろたか)
ニチレイ 技術戦略企画部基盤研究グループ
冷凍食品のおいしさにも深く関わる氷について、日々研究を重ねている。
レイちゃんとロジロジくん
ニチレイロジグループのキャラクター
この「氷の実験室」は、自由研究など幅広く活用していただきたいと思って作りました。非営利目的での複製・転載などについてご希望がある場合は、株式会社ニチレイ広報部( irinfo@nichirei.co.jp )までご連絡ください。
目次
- (1)氷の「重さ」を考える
- 実験1 氷は水に沈む?浮かぶ?
- 実験2 水と氷の体積変化と重さ比べ
- 実験2-1 食用油を凍らせてみよう
- 実験2-2 水と氷と油の重さ比べ
- (2)氷の温度を知ろう
- 実験3 氷の温度を測ってみよう
- (3)氷と温度変化
- 実験4 0℃の氷と100℃のお湯を混ぜると何℃になる?
- (4)いろいろな液体を凍らせてみよう
- 実験5-1 濃さの違うシロップ水の凍り方比べ
- 実験5-2 食塩水と砂糖水の凍り方比べ
- (5)凍り方の不思議
- 実験6-1 色つき水の凍り方を調べよう
- 実験6-2 水が凍る瞬間を見てみよう
- (6)とけ方で氷を見分けよう
- 実験7 どの氷が早くとける?
- (7)電子レンジで氷をとかすと…
- 実験8-1 氷を電子レンジにかけるとどうなる?
- 実験8-2 氷と水を同時に電子レンジにかけるとどうなる?
- (8)熱の運ばれ方と氷の溶け方の関係
- 実験9-1 扇風機の前に置いた氷のとけ方を見てみよう
- 実験9-2 風が強いと氷は速くとける?
- (9)「気化熱」を体感しよう!
- 実験10-1 濡らしたタオルを振り回すと冷える?
- 実験10-2 お湯を霧状にまくと冷える?
- (10)「気化熱」のパワーを計ってみよう!
- 実験11-1 水の気化熱で温度はどれくらい下がる?
- 実験11-2 どっちが冷える?水vsアルコール
- (11)気化熱パワーを利用して「エコ冷蔵庫」をつくろう
- 実験12-1 素焼き植木鉢で「エコ冷蔵庫」をつくろう
- 実験12-2 「エコ冷蔵庫」をパワーアップさせよう
水と氷の重さ比べ
この間、氷の固まりを持ったらすごく重かったよ。
もとは同じなんだから、水も氷も重さは一緒じゃない?
実験1 氷は水に沈む?浮かぶ?
コップの水の中に、氷を入れてみましょう。
予想
実験1の結果を予想してみましょう。
A. 氷は水より重いので、沈む
B. 氷は水より軽いので、浮かぶ
C. 氷と水は同じ重さなので、入れた場所から浮かびも沈みもしない
水に沈む氷はつくれないのかな?
氷博士に聞いてみよう!
教えて!氷博士1 「水に沈む氷」はつくれる?
高圧下では、普通の氷の2倍以上の密度の氷も!
私たちが暮らしている環境下(1気圧)で存在する氷は、水よりも密度が低く、水に浮かびます。しかし、圧力を数千から数万気圧まで高めると、日ごろ見慣れた氷とは構造の違う氷が現れてきます。現在、さまざまな圧力や温度帯で17種類程の氷が見つかっており、発見された順番に氷Ⅱ、氷Ⅲなどと名前が付けられています。
これらの高圧で現れる氷は、通常の氷(氷Ⅰ)よりも密度の高い構造の、水に沈む氷です。例えば、現在見つかっている中で一番重い(密度の高い)氷Ⅹは、氷Ⅰの結晶格子が2つ互いに入り込んだような構造になっていて、重さも氷Ⅰの2倍以上あります。
地球上では自然界には存在しない氷ですが、広い宇宙の中には、氷Ⅰ以外の「水に沈む氷」が自然に存在する星もあるかもしれませんね。

氷Ⅰの構造模型

氷Ⅹの構造模型
※赤の球と青の球はどちらも同じ酸素原子だが、2つの格子が入り込んでいる構造を分かりやすくするために、色分けしている。
氷は水よりどれくらい軽い?
氷が水より軽いことはわかったけど、重さはどれくらい違うのかな?
同じ体積の氷と水を、それぞれ重さを量って比べてみればわかるんじゃない?
実験2 水と氷の体積変化と重さ比べ
1. 透明カップを2つ用意します。
2. 2つのカップに300mlの 水を入れ、油性ペンなどで印を付けます。
3. 片方を冷凍庫で凍らせます。
4. 冷凍庫から凍らせたカップを出して、凍らせなかった水の量と比べてみましょう。どれくらい増えたかな?
5. 水のカップに、氷と同じところまで水を足して、それぞれ重さを量ってみましょう。どれくらい重さは違うかな?
実験のポイント
あっ、カップがふくらんでいる!
氷になって体積が増えるときに、上だけじゃなくて、横や下方向にも膨張したんだね。
変形しないように、ガラスのコップでやってみようか。
あっ、ガラスがひび割れてる!
氷の力ってすごいんだね!
どれくらいの力なのかな?
教えて!氷博士2 氷の力はどれくらい?
水が凍るとき、容器には水深2万mの海底よりも大きな圧力がかかる!
水が凍るときの体積膨張による力は、温度によりますが、約2,000気圧。これは、水深20,000mに相当し、マリアナ海溝(1,000気圧)よりも高い圧力になります。1cm 2 あたり2トンの力がかかっていることになるんですね。通常の容器だと、この圧力に耐えられないため、容器が変形したり、割れたりしてしまいます。ペットボトルや缶ジュースを冷凍庫で凍らせて、破裂させた経験のある人もいるんじゃないかな。
この氷の力は、冬の寒い朝に霜柱が地面を持ち上げていたり、岩石の間に染み込んだ水が夜に凍って少しずつ岩石を壊し、風化の原因にもなっています。
そんな強い氷の力に、カップを変形したり壊されたりしないで、体積の増えた分を計るにはどうしたらいいのかな?
普通に冷凍庫に入れると、冷気はすべての方向から伝わり、カップの水は外側から凍っていきます。カップの氷をよく見ると、ひび割れている部分がありますね。これは、外側から凍っていき、中心部に残った水が凍るときに、その膨張する力で、外側の氷を押し割ったのです。
横や下方向に膨張させないようにするには、下からだけ冷やして、水がカップの下から上方向へと凍っていくようにします。水を入れたカップの横と上を断熱材 (※) で覆って冷気を遮り、さらに、カップの下には熱を伝えやすい金属を敷いて冷凍庫に入れてみましょう。
※板状のスポンジや梱包に使われるエア・クッション(気泡シート)など
エア・クッションでくるんだカップの下に瓶のフタ(金属)を置いて、冷凍庫へ。
やった!これだと体積の増えた分がよくわかるね。
重さはどれくらい違うかな。
他の液体も、凍ると増えるのかな?
実験2-1 食用油を凍らせてみよう
1. 製氷皿に食用油を入れて、凍らせます(固体の油をつくります)。
2. 固体の油を、液体の油の中に入れてみましょう。
予想
実験2-1の結果を予想してみよう。
A. 固体の油は液体の油より重いので、沈む
B. 固体の油は液体の油より軽いので、浮かぶ
C. 入れた場所から浮かびも沈みもしない。
どうして水は凍ると体積が増えて、油は減るの?
教えて!氷博士3 どうして水は凍ると体積が増えるの?
世にも珍しい物質、「水」と「氷」
実は、地球上にあるほとんどの物質は、液体から固体に変わるとき、体積が減ります(密度が高くなる)。水のように固体になったときに体積の増える物質は、ビスマス(Bi)などごく少数しかないんですね。水や氷は私たちにとって最も身近なものですが、実は非常に特殊な物質なのです。
この特殊性は、水分子同士の間に働いている「水素結合」の働きが大きな要因です。水分子は1個の酸素原子(0)と2個の水素原子(H)が結合してできた化合物で、写真① のような構造をしています。水分子のO-HとOの間に働いているのが、水素結合です。
1個の水分子は、写真②のように4つの水素結合をつくることができます。この水素結合のために、水は分子量などの似た他の化合物に比べて、分子同士の結びつきが強くなり、沸点や融点が非常に高くなっています。

写真1

写真2
「すきま」の多い氷の構造
氷の結晶構造について、簡単に説明しましょう。
パチンコ玉など同じ大きさの球を、箱の中にできるだけすきまのないように詰めると、それぞれの球は12個の球に囲まれます。銅や亜鉛、銀などの金属は、このような結晶構造になっています。
それに対して氷の結晶では、それぞれの水分子は、正四面体の頂点に位置する4個の水分子に囲まれています。銅などの金属結晶と比べると、かなりすきまの多い構造といえますね。
この氷が溶けて水になると、水分子の熱運動が激しくなって結晶構造の一部が崩れ、結晶のすきまに水分子が入り込みます。水の構造は固定ではなく常に形を変えていますが、平均すると、それぞれの水分子は4.4個の水分子に囲まれています。0.4個分水の方が氷より密度が大きいので、氷は水に浮かぶのです。
もしも、氷が水よりも重かったらどうなるでしょう? 例えば、池や湖などの表面で凍った氷は、どんどん底の方に沈んでいき、全体が凍ってしまいますね。そうすると、水中の魚などは生きられなくなってしまいます。
この水と氷の特殊な性質のおかげで、私たち人間をはじめ、地球上の生命はさまざまな恩恵をうけているんですね。
油は水より軽いよね。じゃあ、
氷と油はどっちが軽いのかな?
実験2-2 水と氷と油の重さ比べ
1.透明カップに水を入れ、そこに食用油を注ぎます。
2.水と食用油が2層に分かれたら、その中に氷を入れてみましょう。
入れた氷はどうなるかな?
あれっ? この氷は油の中に浮かんでいるよ!
その氷は、冷蔵庫の製氷室でつくった氷ですね? 水道水を家庭の冷蔵庫で凍らせてつくった氷は、白く濁っていることが多いですが、その白い部分は氷の中に閉じ込められた空気の気泡です。
平成24年版「理科年表」によると、室温の菜種油の密度は0.91~0.92g/cm 3 (オリーブ油もほぼ同じ)。0℃の氷の密度は0.917g/cm 3 で、ほとんど変わりませんね。そのため、気泡が入って密度が少し低くなった氷だと、油の中で浮かんだり止まったりすることもあります。市販の透明氷でも試してみましょう。
非営利目的での複製・転載などについてご希望がある場合は、株式会社ニチレイ広報部( irinfo@nichirei.co.jp )までご連絡ください。
2012.03.31 更新