ニチレイから、いま伝えたい食にまつわる
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<第6回> ヒトはなぜ一緒に食べるのか

ひとりで食事をするのはなんだか寂しいものですね。「寂しく感じる」のにはなにか生物学的な理由がありそうだと思いませんか。食事は個体の生命維持と成長のために必要ですが、そこから自動的に他の個体と一緒に食べなければならないという規則は出てきません。むしろ、自分で食物を入手できるなら、ひとりで食べたほうが能率がいいのですから。

実際、多くの動物はひとりで食べています。ネコやヒョウのような単独生活をしている動物はもちろんそうです。しかし、チンパンジーのような群れをつくる動物はどうでしょうか。チンパンジーは同じ時間に食べているのです。午前6時過ぎにベッドから起き、トイレの後朝食の時間になります。1〜3時間食べた後、11時過ぎには昼の休憩時間になり、全員が毛づくろいをしたり、寝転んだりします。子どもたちはレスリングやブランコをして遊びます。午後3時頃には大休憩の時間が終わり、移動を開始し、食べたり移動したりの時間が夕方まで続きます。厳密にいえば、集団の個体はいつも同じことをしているとはいえませんが、活動時間をほぼ同期させていることは確かです。

ではなぜ、そのように時間を合わせるのでしょうか。休んでいるときに、誰かが食べだすと、例えばボスのような個体が叱りつけるかというと、そんなことは見られません。統制されているわけではないのです。また、お互いに、他の個体のやるのを見ていて時間を合わせている様子もありません。ニホンザルや他の群れをつくるサルも食事時間を共有します。そうすると、これは非常に古い習性が持ち越されてきたという可能性が考えられます。そこで、一緒に食事をする動物たちを思いだして、推測してみましょう。

第一に、大型獣を獲物にする肉食獣や死体食の大型鳥類は、共同狩猟する結果、あるいは獲物がひとりで食べるには大きすぎるので、共食します。大量の肉を放置しても他の動物に食べられてしまうので、みんなでできる限り早く食べたほうがトクなのです。

第二に、開けた場所で採食する鳥類や有蹄類などは、捕食者から身を守るため、警戒の目が多いほうが有利です。それで、同時に食べます。このようにして、いったん群れができると、食事だけでなくほかの行動もともにしないと、群れから外れてしまうことになるのです。

サルの場合はどうでしょうか。上の第二の説明でよさそうです。霊長類では、そのうえ、他の動物と違う事情もあります。つまり、多くの霊長類には、離乳は済み、自分で食物を探すがひとりでは不安な「子ども時代」というものがあります。このとき母親と一緒に過ごすためには、食事時間を含む活動をともにしなければなりません。そのとき、母親との共食の習慣がつくられていくのです。

人類の長い歴史を振り返ると、料理という人類独自の文化が200万年前には始まっており、それが大人の間でも食事時間を共有する習慣を強め、ヒトの共食習慣に最終的に影響を与えたと考えられます。

まとめますと、ヒトが他の個体と食事をともにするという習慣は、起源は哺乳類の歴史とともに古く、大型獣の狩猟、料理の開始といったヒトの画期的な生存戦略が生まれたとき強められたと考えられるのです。

西田利貞(にしだ・としさだ)
1941年生まれ。京都大学理学研究科動物学専攻博士課程修了。東京大学理学部助教授、京都大学理学研究科動物学教室教授などを経て、財団法人日本モンキーセンター所長、京都大学名誉教授。理学博士。1965年より、アフリカのタンザニアで野生チンパンジーの行動学的・社会学的研究に従事。おもな著書に『野生チンパンジー観察記』(中央公論社)、『人間性はどこから来たか』(京都大学学術出版会)などがある。2011年6月逝去。

初出:2009年6月1日発行 ニチレイグループ広報誌 OriOri 第15号

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