ニチレイ75年史
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 75年史の編纂に当たり、主に三点、念頭に置いていたことがあります。 一つめは、会社の源流を今までより遡って記述したいと思ったことです。 これまで、ニチレイの歴史の始まりは1942年の帝国水産統制株式会社の設立からだというのが、社内での漠然とした共通認識だったと思います。「戦時中、日本水産株式会社から分離され統制経済下での役割を経て、終戦後民間会社として再出発した。」 25年史の巻末近くに掲載されていた企業統合の系統図と、「京都氷業史」などの資料を基に、主要な源流となる会社について記載しました。そのうちのいくつかは現在もニチレイグループの事業所として存続しています。そうして見えてきたのは、明治維新後のわが国の激動期に、当時としては最先端の製氷・冷蔵業における企業の勃興、事業の拡大、激しい競争、そして嵐のような企業統合の末に、大日本製氷株式会社という一つの大きな塊ができたということです。これが我々の言わば母体だったのだと思います。 二つめは、時のフィルターとでも言いましょうか、時間を経て冷静な目で過去の出来事を振り返ろうと心掛けました。 特に事業環境や会社の営みの変化が激しい時、当事者は流れのさなかにいるわけで、自らの立脚点、取り組みの持つ意義、将来への影響などと言ったことにはなかなか思い至らないのではないかと思います。社史が、温故知新のための道具だとしたら、時のフィルターを通した冷静な目で、過去の出来事を解釈し、今に活かすことができたら、それこそ社史本来の目的にあった読み方だろうと思います。資料や項目の取捨選択が、社史編纂そのものと言っても良いと思います。 ニチレイは、特定の創業者がいる会社ではありません。カリスマの中興の祖がいる会社でもありません。一人一人が限られた時間、つながれたバトンを大切に運んで次の走者に渡す。そういう風にして続いてきた会社だと思います。一見華やかに見えるランナーも、その人を支える多くの人がいてこそだと思いますので、できるだけ大きな視点で、冷静な記載に努めました。 三つめは、デジタル技術の活用と、冊子だけでなくWEBサイト上での掲載です。堅牢な箱、瀟洒な装丁が社史の姿としては似合うのかもしれませんが、後々に判明する誤りを修正したり、テキストや図表を他の資料に転用したり、時と場所を選ばず閲覧したりするためには、社史そのものがデジタル化されていなければなりません。当然その編集過程においてもパソコンやネットワークをフル活用することになりました。コロナ禍における制作会社とのやり取りはWEB会議で行いました。過去の有価証券報告書、社史、社内報などといった基礎資料をあらかじめデジタル化しておくことで、資料の参照や確認が容易になるように努めました。編集途中の前史部分の原稿や、初期のレイアウトなどはイントラネットに掲示して、社内の関係者にチェックしてもらったりもしました。この社史は、当社のWEBサイト上にも掲載される予定です。広く世の中の方々にご覧いただき、活用していただきたいと思います。そして私たちの目に触れなかった資料の存在や正しきれなかった記述の誤りなどが発見され、デジタル版が更新されていくことになれば、編集者の手を離れても社史の命がつながれていくことになるのではないかと思うのです。 今回お世話になった制作会社の担当の方から、「編集後記は次の担当の方が参考にされますよ」ということをお聞きしました。編集に携わったもののうち二名は、実は若い時に50年史の編纂をかなり身近に目にしていました。25年の時を経て自分たちがその役を担うとも想像せずに。50年史の編集後記は、その時代の雰囲気を濃厚に身にまとったものになっています。さすればこの編集後記も、次の社史編纂の担当者に向けての手紙ということになるのかもしれません。必ず手渡せるという意味では、ここに勝る場所は無いかもしれません。 今回の社史は、グループ内はじめ、多くの方々からのご協力をいただき、完成に至りました。歴代の社長経験者の方に行ったインタビューや、各事業会社や管理部門から寄せてもらった資料もフルに活用いたしました。社外の方々からも写真など貴重な資料のご提供をいただきました。凸版印刷年史センターの担当、ライター、営業の皆さんは、身を削らんばかりの勢いで仕事に当たっていただきました。監修をお願いした東京海洋大学の鈴木先生からは深い知見と愛情をもって貴重なご指摘をいただきました。心から御礼を申し上げます。 そして次の社史を担当する皆さんへ。多くの方々からの協力を得て、うまいやり方を見つけて作ってください。くれぐれも自分たちだけで抱え込まないように。たいへんですけど、やりがいはあると思います。楽しみにしています。株式会社ニチレイ グループコミュニケーション部 社史編纂担当岸 正明   森本 浩司岡田 充功  平塚 義英編集後記

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