ニチレイ75年史
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●経営危機が生んだニチレイのバイオ事業 バイオ事業への挑戦は、1980年代の経営危機をきっかけに始まった。「明日のニチレイ」キャンペーンで提案された新規事業案の1つがバイオ事業だった。当社は、1982年に畜産事業の副産物である牛の血清を活用する事業に参入。米国の牧場主と合弁、ユナイテッドバイオテクノロジカル(UBC)を設立してFBS(培地用の牛胎児血清)の輸入販売を開始した。また、並行して牛の胎盤を原料にプラセンタエキスを開発して販売を開始した。そうした中で、血清を使用した細胞培養で作られる抗体に関する新技術や事業に着目、白血病の研究・検査用の抗体の開発を進めるとともに、米国企業の代理店として病理検査で用いられる免疫組織染色製品の輸入販売を開始した。 1983年、白血病の研究・検査用試薬として、自社製造のモノクローナル抗体「NUシリーズ」を発売したが、先行する海外メーカーとの競合から売り上げは思うように伸びなかった。また、免疫組織染色製品の輸入販売も代理店契約を解消するなど、道のりは平坦ではなかった。しかし、輸入販売の道が断たれたことで本格的に製品の自社開発・製造へと舵を切ることになる。1991年の機構改革の際には、医薬品関連事業の方向性を明確にするため、診断薬事業部を設置し、診断薬開発センターを新設した。●最新医療現場を支える 当社は厳しい状況の中でも技術を磨き続けた。1999年に乳がんなどを診断する免疫組織染色法を利用した診断薬「ヒストファイン」シリーズの自社製造を開始、2006年には安定した検査を実現する自動染色装置「ヒストステイナー」シリーズを米国企業と開発して発売した。また、2004年に抗体を使った別の技術であるイムノクロマト法を用いたインフルエンザ診断キット「スタットマーク インフルエンザA/B」の自社製造を開始。2014年には肺がん治療薬のコンパニオン診断薬など新たな治療の可能性を広げる診断薬も開発し、医療現場の一端を支えている。 この間、バイオ事業は2005年にニチレイバイオサイエンスとして独立したが、生産と研究開発の拠点は東村山市にあった旧総合研究所の建物を利用してきた。事業領域である診断や健康関連分野は、進行する日本の高齢化や世界人口の増加などを背景に、市場の拡大が続いている。同社の売り上げはこの10年で2倍以上に伸びた。また、診断キットやコンパニオン診断薬などは医療現場に不可欠な製品であり、安定供給は社会的使命でもあった。そこで同社は、安定供給の実現と海外展開に向けた体制づくりの一環として、新たな生産・研究開発の拠点「グローバルイノベーションセンター」を狭山市に設置し、2019年6月より本格稼働した。 現在、ニチレイバイオサイエンスは、3つの事業分野――がんの診断や治療方針の決定に使用される診断薬などを製造・販売する「分子診断薬事業」、インフルエンザを迅速に判定する診断キットなどを開発・製造・販売する「迅速診断薬事業」、細胞培養に用いられる培地や血清などを輸入販売する「バイオ医薬品原料事業」──において、高品質な製品・サービスを提供している。204自動染色装置「ヒストステイナーAT」インフルエンザ迅速診断キット「イムノファイン FLUⅡ」がん診断薬「ヒストファイン」心と体の健康に貢献するバイオサイエンス事業バイオサイエンス事業

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